大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和24年(ワ)144号 判決

原告 廣光義彦

被告 鈴木誠虎

一、主  文

被告は原告に対し金九千円を支拂うこと。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文と同じ判決を求め、其の請求原因として、原告は別府市浜脇三千九百六十六番同所三千九百六十七番地上の木造瓦葺四階建家屋で大和旅館と言う名称で旅館業を営んでいるものであるが、被告に対して昭和二十三年三月右家屋中二階の四疊半一室(第十九号室)を賃料一ケ月五百円毎月月始めに支拂う約束で貸與したところが、被告は同年六月分迄の支拂をしたが同年七月から昭和二十四年十二月分迄の宿料合計金九千円の支拂をしないので、其の支拂を求むる爲本訴請求に及ぶと述べ、被告の答弁に対して、本件家屋は原告が昭和二十一年十一月頃訴外大島シノから賃借したものであり、其の後原告及右大島間に本件家屋に関して爭を生じ目下繋爭中であるが、未だ賃貸借契約は存続中である。從つて仮に被告が昭和二十三年七月以降の宿料を訴外大島シノに支拂つたとしてもそれは適法な弁済ではないと述べた。<立証省略>

被告は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、被告が昭和二十三年三月から同二十四年十二月迄原告主張の第十九号室の室料を一ケ月五百円の約で借受けこれを使用したことは認めるが、原告が右家屋の経営者であるか否かは知らない。室料不拂の点は否認する。即ち被告は同家屋に居住していた訴外永江熊雄を介して借受けたものであつて権利金千円、謝礼金三百円及四ケ月分の室料合計二千円を右訴外人に前渡して居住したのである。ところが昭和二十三年七月分以降の室料は家主である訴外大島シノから家主に直接支拂うよう通告があつたので右通告に從い大島シノに支拂つたものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

被告が別府市浜脇所在大和旅館の二階四疊半(第十九号室)一室を賃料(原告は宿泊料と称す)一ケ月五百円で借り受け昭和二十三年三月から昭和二十四年十二月まで使用していたことは当事者間に爭のないところであり、右賃料中昭和二十三年六月分迄は原告が受領したことは原告の自認するところである。そこで成立に爭のない甲第一、二号証、乙第一、二号証、第五号証、証人廣光美代同河村常左衞門の各証言並河村証人の証言により眞正に成立したと認むる乙第四号証及弁論の全趣旨を綜合すれば、前記大和旅館は訴外大島シノの所有であつて貸間業を営んでいたところ、原告が昭和二十一年十一月頃右大島より同旅館をその営業権と共に賃借し、引続き貸間業を営んで居ること、その後原告及大島間の右賃貸借契約につき両者間に紛爭を生じ目下繋爭中であること、右大島は家主として又同人の内縁の夫である訴外河村常左衞門は大和旅館営業主として共同して昭和二十三年八月被告及其の他の間借人に対し原告に対する本件家屋の賃貸借契約は昭和二十三年四月限り解除したので五月分からの室料は直接家主に支拂つてくれとの通知を爲したこと、被告は右通知に基き同年七月分より昭和二十四年十二月分までの室料合計金九千円は原告に支拂わず家主である訴外大島シノに支拂つた事実を認むることが出來る。從つて原告が被告に対して本件家屋の一室を貸與したのは原告が主張するような宿泊と認むべきでなく、その部分に対する轉貸と認むるのが相当である。そこで被告が訴外大島シノに対して爲した前記室料の支拂は適法であり、これによつて原告に対する室料の支拂義務は消滅したものであるか否かにつき判断するに本件家屋は前認定のように訴外大島シノの所有であつて貸間業を営んで居たのであるが、原告がその営業権と共に右家屋を借り受け引続き貸間業を営んでいたものであるから、原告と被告その他間借人との関係は轉貸借関係であつて且賃貸人の承諾を得た適法な轉貸であると謂わなければならない。從つて民法第六百十三條により被告が家主である訴外大島シノに対して爲した室料の弁済は適法であつて、これにより原告に対する室料の支拂義務は消滅したかのような解釈も生じるが、民法第六百十三條によれば轉借人は賃貸人に対しても直接義務を規定している。この義務は轉借人が轉貸人に対して負担する義務の範囲内でしかも轉貸人が賃貸人に対して負担する義務の限度内に於てのみの直接義務であると解するのが相当である。ところが原告が本件家屋を賃借したのは前認定のように貸間営業を爲すこと即ち轉貸により利益を得るのが目的であるから、賃貸料より轉貸料の方が多額であることは当然のことである。かような場合賃貸人が賃借人に対する賃貸料の限度で各轉借人より按分して室料の取立を爲すが如きは事実上不可能である。從つてかような場合に於ては、原告及訴外大島シノ間の前記賃貸借契約に関しては、民法第六百十三條の適用を排除することにつき両者間に暗默の合意があつたものと認定するのが相当である。從つて被告としては賃貸人及賃借人間の賃貸借契約につき紛爭がある場合は弁済供託等の方法により履行遅滞の責を免れ得るに拘らず、何等室料取立につき直接の権利を有しない訴外大島シノに対して爲した室料の支拂は、適法な弁済とはならず、これにより轉貸人である原告に対する室料支拂義務は消滅しない。よつて原告が被告に対し昭和二十三年七月分以降同二十四年十二月分まで一ケ月五百円の割合による合計金九千円の室料の支拂を求むる本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 尾崎力男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!